前ディズニーCEO、ロバート・アイガーによる自伝本『ディズニーCEOが実践する10の原則』を読了しました。
2月にCEO退任したロバート・アイガーは、帝国とも呼ばれるまでにディズニーを繁栄させたCEOです。下は ”世界の映画興行収入歴代トップ10” ですが、8本がディズニー陣営と、強さの一端を示しています。
ディズニー、配信帝国への野望 Hulu完全買収 :日本経済新聞 (2019年5月)
『ディズニーCEOが実践する10の原則』は、ABCでの出世とディズニーによる買収と後継者選び、ディズニーCEOとしてピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、21世紀フォックスの買収劇が描かれています。
個人的に興味があったのは、ピクサー、とくにスティーブ・ジョブズとの関わりでした。
昨年出版された本『PIXAR』では、ピクサーCFOの立場からディズニーによる買収を描いていましたが、今回は反対にディズニーCEOがみたピクサー買収の経緯とロバート・アイガーの人物像が興味の対象でした。
スティーブ・ジョブズとディズニーの関係
1995年公開のトイ・ストーリー、株式公開の成功により、ジョブズ率いるピクサーはディズニーとの契約の見直しを迫りますが、当時のディズニーCEOマイケル・アイズナーは拒否。この確執がアイズナーCEO更迭の原因ともなります。
アイガーがCEO就任する2005年3月では、就任報告に対するジョブズの対応は非常に素っ気ないものであったことが描かれています。
ビデオ iPod によるジョブズとの関係修復
CEO就任直後のアイガーは難航が予期されるピクサーとの契約交渉は後回しにして、手始めにアップルの iTunes にディズニーや傘下ABCのドラマを配信する提案を行ったことが書かれています。
そのときジョブズは発表前の iPod 第5世代(初めての動画対応 iPod)をこっそりみせて、発売したらテレビ番組を提供できるか尋ねる場面があります。
実際、2005年10月の ビデオ iPod 発表会ではロバート・アイガーが登壇、テレビ番組提供を発表しています。CEO就任から僅か7ヵ月でジョブズとの関係修復を行ったアイガーの手腕がよく分かる一例です。
ピクサー買収と直前のジョブズの告白、ジョブズ埋葬のあと
ジョブズとの関係をつくったアイガーは、課題のピクサー問題解決案としてディズニーによる買収を提案。ピクサー文化を壊さないことを伝えて買収案をまとめます。
この本には2006年1月、ピクサー買収発表直前に起きたジョブズの行動が書かれています。
公式発表直前、ジョブズはアイガーを散歩に誘い、自身のガン再発を告げます。ディズニーの最大株主で取締役になる発表をする前に伝えておきたかったとのこと。独善的といわれるジョブズとは違った一面が描かれています。
またこの話には後日談があります。ジョブズの妻ローレンによると、買収発表日の夜、ジョブズがアイガーを「すごくいい奴だ」といっていたのだそう。
その他のジョブズ話
他にもいくつかジョブズについての話が触れられていて、アイガーにとってジョブズが非常に大きな存在だったことが伺えます。
・ディズニーのお手頃なホテルをジョブズに案内したときの辛辣な意見。
・マーベル買収について、コミックブックはビデオゲームより嫌いなんだ。
・アイアンマン2の辛辣な評価。ジョブズ「最低だな。」
・ディズニー株主総会への取締役への反対票。のちアイガー説得で撤回。
・マーベル買収交渉時、マーベルに電話してアイガーが信頼できる人物であると伝えたこと
・アイガーの依頼に対して、友だちだと思ってること。
以上、ABCの雑用から41歳でABC社長、のちディズニーCEOとして帝国を築いた人物による自伝本『ディズニーCEOが実践する10の原則』でした。
未読の人は、是非ピクサー社CFOが書いた『PIXAR』もどうぞ。
ジョブズがどのようにディズニーと交渉し、ピクサー売却を進めていったかが分かる本です。
プロローグ
第1部 学ぶ
第1章 下っ端時代
第2章 大抜擢
第3章 首位奪還
第4章 ディズニー入社
第5章 ナンバーツー
第6章 内紛
第7章 後継者選び
第2部 導く
第8章 最初の一〇〇日
第9章 ピクサー買収
第10章 マーベル買収
第11章 スター・ウォーズ継承
第12章 イノベーションか、死か
第13章 正義の代償
第14章 未来への布石
付録 リーダーの原則
謝辞
訳者あとがき