2007年9月24日月曜日

本:マッキントッシュ物語 -僕らを変えたコンピュータ-

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 スティーブン・レヴィ著。Macintoshの誕生について詳しく書かれた本。1994年出版。2002年再刊。316ページ。 

 第一章 出会い
 第二章 ブッシュの夢
 第三章 PARCの天才たち
 第四章 リサ誕生
 第五章 ラスキンの夢
 第六章 生みの苦しみ
 第七章 マッキントッシュ誕生
 第八章 ひ弱な未熟児
 第九章 救世主現わる
 第十章 成熟期
 第十一章 マッキントッシュいずこへ

 
 P13にあるジョブズの言葉「めちゃくちゃすごい(インセインリーグレート)」であるために、どういうことがクパティーノで起こってたのか、本書からいくつか抜粋。
 
 ルネサンスの時代ーマッキントッシュやマッキントッシュ関連製品の開発者によってたびたび引き合いに出されるこのルネサンスの時代ーには、芸術家たちが細部においても苦悩に満ちた創造を続けていた。一筆一筆が物語を生んでいった。そして、一九八〇年代初期のシリコンバレーでは、「ユーザーがドロップダウンメニューの項目を選択したときに何回点滅すべきか」といった美的感覚に関する激しい議論が繰り返されていたのだ(マッキントッシュのアーティストたちは三回に決めたのだが、結局はもっと少ない方が良いという人のためにその回数を自分で設定できるようにしたのだった)。(P18)

 
 テスラーの悩みはユーザーによるテストだった。初心者でも机の上にのせてすぐに使える最初のコンピュータという触れ込みだったから、すでにデジタル文化の神秘に遭遇したことのある人はテストには使えなかった。幸い当時のアップルは秘書、守衛、営業、経理などに多くの社員を採用しており、そうした人々はほとんどコンピュータに触れたことがなかった。テスラーは月曜日ごとに開かれたオリエンテーションで新入社員と接する機会を持っていたので、テスラーが後に語ったところによれば「彼らがほかのコンピュータに『汚染』される前に」バンドレー2のリサの本部のユーザーテスト会場に連れてきた。新人をリサの前に座らせ、一つ一つの事柄について個別に前もって用意しておいた実験を行った。「最初にこうして・・・今度はこうしてください」四、五人の新人をこのようにテストしているうちに解答が自然に浮かび上がってくるという案配だった。(P105)

 マックは直感的といわれるけど、そうあるために自らアーティストと称した開発者たちが、どのように創造的だったか伺い知れる。また検証方法として、コマンドラインなどのコンピュータの操作を人間が覚えるのではなく、初めてコンピュータを触る人間がどのように操作するのかを調査することで、さらに親しみやすいコンピュータになったことがよくわかる。当時、ここまでユーザーインターフェースが練られてるのが凄い。


 ラスキンは私にこう語っている。「アップルIIのマニュアルを書いてくれと頼まれました。一ページ当たり五十ドルだと言ったら、向こうはマニュアル一冊で五十ドルだと言うじゃありませんか。」それでもラスキンは二人のスティーブの条件をのみ、シリアルナンバー2のアップルIIを見せられた。ラスキンは洗練されたマニュアルを書き上げ、これはその後、歴史の浅い業界内でバイブルとなった。七七年初頭、アップルが正式に法人となった日に、ラスキンはアップルの出版部長の職を引き受け、三十一番目の社員となった。仕事がオペラカンパニーのリハーサルの妨げとならないことを保証するという条項を契約書に入れるよう強硬に主張し、認めさせて。(P120)

 
 Macintoshの名付け親でもあるジェフ・ラスキンが、Appleに入ることになった経緯。Lisaが一万ドルを超える製品になっていく一方で、のちにパーソナルコンピュータを低価格で家電並みに使いやすいものにしたいと考えMacintoshプロジェクトを立ち上げる。カリフォルニア大学の教授職を辞めるときに、熱気球に乗って学長宅上空でリコーダーを吹いたという逸話を持つラスキンらしい話。
 
 
 ケアのもう一つの重要な任務は書体の作成だった。パソコンの世界で初めてフォントが問題になった。ユーザーが買ったばかりのマックの箱を開けると六~七種類のフォントが添付されており、しかもこれらすべてにイタリック(斜体)、ボールド(肉太活字)、さらにはシャドウ(陰)やアウトラインといったバリエーションも組み込まれていた。ライセンス料を節約するため、フォント自体は大企業が提供する版権付きのものではなく、ケアが自分でTimes、Century、Helvetica、Gothicなどを真似てデザインしたものが使われた。(P173)

 
 Macintoshの愛らしいアイコンを担当したことで知られるスーザン・ケアの仕事について。GUIの完成に欠かせなかったタイトルバーの横縞やスクロールバーのデザインなどもケアの仕事だった。Macintoshの視覚的な仕上がりをもともとローカルな駅名を付けられる予定だったはずのフォント名に都市の名前が付けられたいきさつなどが面白い。
 
 
 アップルのこうした変化を見ていると、私はマックの発表直前の八三年十一月、ジョブズと夕食をともにしたときの会話を思い出す。ジョブズはアップルの将来についてこう話していた。「十億ドル規模の会社になると何かが起こる。決まって平凡な会社になってしまうんだ。マネージメントにいくつもの階層が出来てしまう。結果よりも製品よりも、過程を重んじるようになる。ユーザーからの声が届かなくなる。最初にあった魂がどこかへ飛んで行ってしまうんだ。これこそ、スカリーと僕が五年後か六年後に評価を問われる点だと思うんだ・・・魂を失わずに百億ドル企業になれるか否かが問題なんだ。」(P300)

 
 ジョブズがユーザーの声を聞いてるのかというと疑問だけど、この言葉はジョブズの非凡さを物語っているように感じる。まあ当時の5,6年後という訳にはいかなくて、iMac、そしてiPodという成功を収めた今、ようやくジョブズが本当に優れた経営者として認められた訳なんだけど。。。

 
 以上、PARCやリサ、ラスキンの考えなどマッキントッシュの誕生について、ジョブズに焦点をあてすぎることなく書かれた本。お勧めです。といっても品切れしてるので、安くオークションやらユーズド商品を見つけるしかないのですが。。。また梅田望夫・茂木健一郎のフューチャリスト宣言でも取り上げられてて、それで気になって購入した口です。

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