珍しくアップルCEOティム・クックが批判したことで注目された本『沈みゆく帝国』のサンプルをいただき読了しました。
アップルがどうして「沈みゆく帝国」なのか? アップルはジョブズに「取り憑かれている」のか? ティム・クックが珍しく批判したのはどうしてか? そのあたりに注目して読み進めました。
アップル担当WSJ記者が描く500ページの大作
約500ページの大作で、第1章は2008年、ジョブズの激やせが話題になったWWDCからです。ちょうど著者がWSJのアップル社担当になった頃でジョブズが亡くなる第5章まで詳細に描かれています。
本書の著者は東京生まれながら主に米国で育ったジャーナリスト、ケイン岩谷ゆかりさん。2009年6月にジョブズの肝移植をスクープしたWSJの記者として記憶していた人物でした。
6章以降はティム・クックCEOを中心に、ジョナサン・アイブ、フィル・シラー、スコット・フォーストールなどのアップル経営陣、フォックスコンなどが描かれていますが、このあたりまではティム・クックが批判するような内容はなさそうです。
その後、Siriリリース時の問題を皮切りに、サムソンとの訴訟問題、電子書籍での価格操作裁判、租税回避問題を詳しく取りあげています。訴訟のニュースを逐次追いかけていた人も、詳しい法廷内での描写はアップルの訴訟戦略の推移をしるうえで貴重な内容で、そこがティム・クックの逆鱗に触れたのかもしれません。
ティム・クックの批判はあたっているか
著者は、ティム・クックとアップルを「沈みゆく帝国」として次のようなことを書いています。
まずWWDC2012 オープニングでのSiriの冗談に対して。
常にクールを旗印としてきたアップルがオープニングでこんな演出をするなど、ありえないだろう。これまではずっと、競争から一歩抜きんでた位置にいたのだ。それが、Siriに安っぽい狙撃で笑いを取らせようとするとは。あまりに痛いギャグだ。「Get a Mac」キャンペーンでMacとPCを擬人化したオープニングを知らないとは思えないが。同時期のWWDC垂れ幕でMicrosoftをコピーキャット扱いしていたころよりは上品になったのかなと。
また終章で。
後を継いだクックは、ジョブズがしたであろうことをするのではなく、アップルにとってベストなことをしていくのが自分の役割だとくり返している。だが同時に、アップルはなにも変わっていない、自分を取り囲む世界は変わっているというのにアップルは変わっていないと言ってゆずらない。ここに矛盾があることに、クックは気づいているのだろうか。クックがいうのは「アップルは最高の製品をつくる、そのためには集中しないといけない」ということでアップルにとって一番大切なことはジョブズのころと変わっていないということだと考えればそう矛盾した発言とも思えないのではないだろうか。
アップルは世界で最も大きな企業となったことで多くの問題(特許訴訟、電子書籍訴訟、租税回避)などが出てきていて、実際に批判を浴びることも増えているという現実は理解できるものの、原題の「Haunted Empire」からすると、邦題「沈みゆく帝国」というのはやや語感が強い印象を受けます。
最後に
アップル・ユニバーシティーの社外講師である、ハーバード大学ゴータム・ムクンダ教授はこう述べたようです。
「どのような環境においてもどのような市場においても、会社を平均値へと向かわせる力が常に働いているものです」
ジョブズという奇跡的な偉業をなし遂げた経営者の後では、予想されたとおり常に批判があります。また上記ムクンダ教授のことばは事業物理学のことだけでなく、会社の評価、人物の評価にも当てはまる気がします。
常にジョブズのことを調べてる私がいうのもなんですが、もしかして我々、アップル製品が好きな顧客も「ジョブズに取り憑かれて」いるのかもしれません。
書籍「沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか 」は6月18日(水)に書店、またKindleでも発売です。